神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ
https://doi.org/10.24546/0100492580

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メタデータID
0100492580
アクセス権
open access
出版タイプ
Version of Record
タイトル
日本の旧翅類の翅の撥水性と表面における突起構造及び化学物質に関する研究 : トンボ目とカゲロウ目を比較対象として
その他のタイトル
Study on the Water Repellency of the Wings of Japanese Paleoptera and the Structure and Chemical Substances of Protrusions on the Surfaces: A Comparative Study of the Dragonflies and Mayflies
著者
著者名
長坂, 圭悟
言語
Japanese (日本語)
収録物名
課題研究優秀論文集
巻(号)
2024
ページ
66-94
出版者
神戸大学附属中等教育学校
刊行日
2025-01
注記
令和6(2024)年度
抄録（自由利用可）
本研究は、日本在来のトンボ（ハグロトンボ：Atrocalopteryx atrata）及びカゲロウ（ヒメヒラタカゲロウ：Rhithrogena japonica）の翅の撥水性と表面構造及び表面物質について詳細に調査したものである。トンボ目の翅には、パルミチン酸などの脂肪酸や脂肪族炭化水素で構成されるナノレベルの突起構造（ナノ突起構造、ナノピラー）が存在し、これによって翅に物理的・化学的性質によって撥水性を与えていることが明らかになっているが、トンボ目と同じ祖先種を持つカゲロウ目についての比較研究は報告されず、また、これらの優れた撥水性を持つ構造を、有翅昆虫の中で系統的にどの時代に獲得したかを明らかにしている研究は見当たらない。そこで本研究では、カゲロウ目の翅の撥水性を測定し、電界放出型電子顕微鏡（FE-SEM）を用いて翅表面の微細構造を観察し、薄層クロマトグラフィー（TLC）及びエレクトロスプレーイオン化質量分析装置（ESI-MS）LC/MS分析により翅の表面物質を明らかにし、トンボ目との比較を行った。ハグロトンボとヒメヒラタカゲロウの翅に蒸留水を滴下し、その水滴について、滑落角と接触角を測定した。ハグロトンボとヒメヒラタカゲロウ共に、滑落角は数～十数°、接触角は150°程度となり、どちらも高い撥水性（超撥水性）を持っていた。翅にクロロホルム処理を施すと、トンボの翅の撥水性の減少に比べ、カゲロウの翅では撥水性の減少が著しく大きかった。FE-SEMで翅の表面を観察したところ、トンボの翅の表面では、クロロホルム処理後、突起の密度が減り、突起の長さも半分程度となっていたが、カゲロウの翅の表面ではその変化が確認できなかった。さらに、カゲロウの翅の表面物質について、TLC、ESI-MS を用いたLC/MS 分析を行った結果、ステアリン酸（C18H36O2）、やパルミチン酸（C16H32O2）が検出された。このことにより、カゲロウ目の翅の撥水性は、トンボ目のようなナノ突起構造によるものではなく、ステアリン酸やパルミチン酸といった物質の化学的な作用によるものであることが明らかになった。またこれらの物質はトンボ目のナノ突起構造を構成する物質と共通することから、トンボ目とカゲロウ目の祖先種の翅には、これらの長鎖飽和脂肪酸が表面に薄く存在することで撥水性を持っていたと考えられる。そしてトンボはその祖先種からトンボ目として分化した後のデボン紀末期から石炭紀後期の間（約3.6～3.3 億年前の間）において、独自に翅のナノ突起構造を手に入れた可能性が示唆された。
This paper explores the water repellency and chemical composition of the wing surfaces of Japanese dragonflies and mayflies (Atrocalopteryx atrata, Rhithrogena japonica). Previous research has shown that dragonflies' wings possess nanostructures, specifically nanopillars, contributing to their effective water repellency. This study aims to examine the water repellency and surface characteristics of mayfly wings while delving into the evolutionary correlation between dragonflies and mayflies. The sliding and contact angles of both insects' wings were measured, and significant hydrophobicity in mayflies' wings was revealed. However, unlike dragonflies' wings, the hydrophobicity of mayflies' wings decreased upon exposure to chloroform. Furthermore, an analysis using Electrospray Ionization Mass Spectrometry (ESI-MS) detected the presence of palmitic acid and stearic acid on the surface of the wings of the mayflies. These empirical insights prompt the author to postulate that the wings of the common ancestor of dragonflies and mayflies harbored saturated fatty acids. Subsequent to the speciation event between Odonata and Ephemeroptera, dragonflies underwent a unique evolutionary adaptation, developing nanopillars on their wings.
キーワード
Nanostructure
Water Repellency
Ephemeroptera
Odonata
Palaeoptera
カテゴリ
課題研究優秀論文集 ＞ 2024号（2025-01）
紀要論文